新規顧客の獲得やマーケット開拓のためのマーケティングは、デジタル技術が進化する前からさまざまな手法が生み出されてきました。
こうした先人たちの努力によって築かれたノウハウが、かつて日本の経済成長を支えていたことは間違いないと思います。
しかし、ものすごいスピードで変化している今の時代において私が感じているのは、これまでのアナログ的なマーケティングの成功パターンが、もはや通用しなくなっているということ。
それに気付いている企業経営者も多く、デジタルマーケティングを取り入れる方向へ舵を切ってみるのですが、いったい何から始めればよいのかと悩んでしまうことも……。
そこで今回は、デジタルマーケティングに大切な、でも忘れてしまいがちなポイントについてお話していきます。
まず「デジタルマーケティング」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、Tik TokやInstagram、YouTube、twitterといったSNSツールの活用ではないでしょうか。
- 企業の公式アカウントを作成し、多くの人に情報発信をしていく
- 若い人たちに会社を知ってもらうため、SNSやWebサイトに広告を出す
- 公式アカウントのフォロワーや登録者を増やすため、コンテンツに力を入れる
実際にさまざまな企業で行われているアプローチの一例ですが、注意したいのは、これらはあくまで「手段」の一つに過ぎず、行為そのものをデジタルマーケティングだと捉えるのは危険だということです。
おそらく背景にあるのは、インフルエンサーやユーチューバーといった影響力の強い存在によって刷り込まれた、「発信力があればOK」という認識ではないでしょうか。
私は、こうした誤解をされているクライアントには、「ホームページやSNS、Web広告などを検討する前に、まずは“誰に何を伝えるのか”を明確にしましょう」とお伝えしています。
デジタルマーケティングで重要な根幹の部分が曖昧なまま、手段(ツール)にばかり意識がいってしまうと、無数にあるデジタルメディアに振り回されることになってしまうからです。
正直なところ、フォロワーや登録者の獲得、SEO対策、コンテンツの制作などは、それぞれに特化した代理店やコンサル企業といったプロフェッショナルが山ほど存在していて、ある程度のお金をかければ、ほとんどが解決できてしまいます。
特定のキーワード検索でトップに出してもらうことも可能ですし、TikTokの運用も月額で質の高い動画を制作してくれるクリエイターは数多くいます。
バナー広告だって、どこにどれくらい出せばどの程度のインプレッションがあるか、データによって確立されています。
ある意味、お金でアウトソーシングできてしまうものなのです。
その一方で、お金では解決できないこともあります。
それが企業の「マインドセット」と「スキルセット」です。
具体的には、ペルソナはどんな人物か、どのようなカスタマージャーニーを描いているのか、タッチポイントはどこなのか、などです。
どうかここは、アウトソーシングしないでください。
といますか、しちゃいけません。
経営者をはじめ、そこで働く人たちが誰よりも理解していなければならず、社内で時間をかけて作り上げていくものだと思います。
先に述べたデジタルメディアの活用も、マインドセットとスキルセットがしっかりしていないと芯がブレブレになってしまい、お金だけが失われていくことになってしまいます。
たとえばSEOの会社なら、営業担当者が
「あなたの会社を〇〇で検索トップにしてみせます。その効果は絶大です!」
とアピールしてこられるでしょう。
SNS広告の会社なら
「いやいや、SEO対策なんて最後でいいですよ。まずはターゲティングがしっかりできるSNS広告で、興味関心の高いユーザーに絞り込んでいきましょう!」
と言われるかもしれません。
展示会出展のコンサル会社店なら
「やっぱり、リアルに人と会うのが一番大事ですよ!」
と言われるでしょう。
……さて、いったい誰の言っていることを信じたらよいのでしょう?
こんなふうに書くと、まるで彼らが嘘を言っているように感じてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。
どれも専門性が高く、膨大なデータから導き出したノウハウを持っているわけですから、正しく使えば効果は十分に期待できます。
反対に軸がなければ目利きもできず、その結果、さまざまな業者の言いなりになってしまうのです。
トップダウンで「わが社もSNSをやるぞ!」という指令が降りてきてアカウント開設したものの、フォロワー数も内容も試行錯誤の迷路にはまっている、というパターンにも同じことが言えます。
これはわりと中小企業でありがちなのですが、経営者の
「うちもSNSをやるぞ!」
というひと声だけで走り始め、現場の担当者は
「とりあえずやってみるか……。そのうちバズったらラッキーかな」
という模索状態。
指示を出したほうも出されたほうも、目的意識や「誰に、どんな情報を発信していくのか」というマインドセットの共有がないまま行っているので、これではブレてしまいますよね(汗
繰り返しになりますが、大切なのは、自社のマインドセットやスキルセットという軸ができていること。
そうすればマーケティングの方針が明確になり、それを実現するための手段は何が必要なのかが、自然と見えてくるはずです。
商品・サービスのペルソナやカスタマージャーニー、タッチポイントなどを明確にし、社内で検討した結果、「今年の方針はSEO対策」となったのなら、SEO対策やリスティング広告をすればいいですし、はたまた交通広告ならそこを頑張りましょう。
そして手段が決まったのなら、SEOやリスティング、SNS広告などのシステム構造にそれほど詳しくなる必要はありません。
そんな時間はないですし、高い専門知識は外注先にお任せして、自社の方針からずれていないかや、設定したマインドセットやスキルセットを定期的に見直し、アップデートしていくことなどにリソースを使ってください。
どのようにして自社のマインド&スキルセットを設定していくかは、商品・サービスや企業が抱えている課題によって異なりますが、本コラムでは、できるだけわかりやすく紹介していければと思います。
デジタルマーケティングという言葉から、ついテクノロジーや手段そのものに意識が向いてしまいがちですが、実際はそれよりも前の段階にあるものがとても大切なのだということを、まずは覚えておいてくださいね。
逆説的な言い方ではありますが、それはアナログ/デジタルといったアプローチに関係なく、あらゆるマーケティングに共通してくる部分です。
そしてここを抑えていれば、時代がどれほど変わろうが、どんな新しいデジタルツールが出てこようが怖くありません!
デジタル社会の波に流されることなく、むしろその波にうまく乗りながら柔軟に対応していくことができると思うのです。